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RFアナログエンジニア ブログ

マイクロ波集積回路試作の思い出 ~その2. ミリ波2値FSK方式無線機の変調指数

1985年ごろ開発した40GHz短距離デジタル無線装置は、顧客より官庁の開通試験時に際し、FSKの変調度の説明を求められた。

本装置は、デジタル信号、アナログ信号を共通でFM変調できる線形変調回路を用いている。

旧来の試験信号の音声多重信号やNTSC映像信号とは異なり、デジタル信号であるから帯域制限フィルタを通過した信号で変調する。

そのため、帯域外放射レベルが占有帯域規格内であることを説明する必要があった。

今ではスペクトラムアナライザにより、帯域外放射電力(99%値等)を自動測定できるので説明容易であるが、当時は実績がなく、ランダムパターンのデジタル信号によるFSKの帯域外放射レベルを変調指数に置き換えて説明した

マイクロ波集積回路試作の思い出 ~その1. 銅埋め込みセラミック基板のMIC研究試作

 1980年代に先に述べた1.7GHz帯広帯域中間周波増幅器のMIC基板に使われるセラミックは、誘電率、厚さ精度、薄膜導体、抵抗薄膜、温度特性に優れている。

しかしマイクロ波帯MICの平面回路は、グランドの形成が課題になることがある。

また、量産用ガンダイードのチップを低熱抵抗で搭載する基板が望まれていた。 

ハイブリッド、フィルタなどの受動回路では、1層導体のパターンで設計可能であるが、トランジスタを含む能動回路では2層目の導体(グランド)に接続する場合がある。

特にトランジスタのエミッタを低インピーダンスでグランドに接続する工夫がなされる。

開発当時のトランジスタのftは数GHzであり、出来るだけ利得を稼ぐため、グランドインピーダンスを低くする工夫を必要とした。

そのため、エミッタ端子を2層目の導体グランドに最短で接続する導体構造の基板とした。

具体的には1.GHz帯用の基板厚は1mm, ミリ波帯用の基板厚は0.3mmとし、セラミック基板に予め決めた位置にスルーホールを開け金属メッキまたは純銅で埋め、12層を導通するもので、当時は販売する基板メーカーは無かったため、試作した。

試作したスルーホールメッキ付き、及び銅埋め込みセラミック基板を使用し、マイクロ波増幅器とガンダイオードチップを純銅導体にダイボンディングしたミリ波発振器の試作を行った。

デジタル無線機のビットエラー課題と解決

屋外設置型デジタル無線機は、総合試験時に送受信装置間の着信レベル対BER(ビットエラー)で試験評価する。BER試験メニューに静的試験以外に、温度試験、機構的振動試験、防水試験があり、無線装置の対抗試験としての事前検証は全て行えないので一号機の出荷試験には、緊張した。特にハンマー打刻試験(通常、叩き試験)は、耐衝撃性設計は、他部門任せであったため、不安であったが工場の総合試験は合格した。

筆者が装置設計した40GHzデジタル無線装置の1号機は、各担当部門の設計によるものの集合体であるので、総合試験項目を設計段階で、問題が起こらないことを可能な限り検討しておくことが肝要である。1例として機械的振動が電気信号に影響するマイクロフォニック雑音があり、他機種の無線装置で装置の傍で拍手するだけで、水晶振動子に影響し不具合発生することを同僚に教えてもらったことがあり、過去の課題発生と解決法を学習し、変復調方式、変復調回路の選択と設計を行った。

叩き試験については、事前に強度、構造の要望を出し設計してもらった。それでも、システム稼働後、長時間経つと不具合が発生する場合があり、不具合を其のままにせず、原因究明を設計者に周知共有し、高信頼設計に生かすことを学んだ。特に1号機が大切だ。ミリ波無線装置の1号機は、1年ほど問題なく稼働したが、ユーザーの定期点検で、屋外装置内の結露、底部に水たまりが確認される不具合があり、対策を施した。この教訓を2号機の改造設計に生かし、問題を解決した。さらに50GHz帯簡易無線の屋外装置の機構構造は、防滴仕様より厳しい防水仕様の設計にした。

デジタル多重無線システムの構成と電波雑音の課題と解決

昔からマイクロ波多重無線固定局は、アンテナ部を屋外に設置し、導波管等の給電線で屋内装置(RF送受信機、搬送端極装置、電源部等)に接続する構成であった。近年マイクロ波、ミリ波化などでアンテナと送受信機を一体化し屋外に設置される構成が多数になった。

固定局無線機は、基本的に信号対雑音比から回線設計される。信号は雑音に比べ、比較的に理論が確立しており、測定評価も容易だ。雑音は、信号に比べ実に広い周波数領域、時間的変化、多種類があり、測定評価も難しい。無線機の場合、構成される周波数帯域(RF,IF,BB)にある不要雑音を対象と捉え設計する。

無線システムのあまり公表されない要素に、RF送、受信の回線設計以外にシステムから発する干渉雑音、他から受ける干渉雑音があり、顧客からの要求に対処する無線システム設計が課せられたことがある。一つは屋外設置のミリ波デジタル無線送受信装置と屋内設置のデジタル搬送波端末装置の接続に関し通常にない要求として、デジタル信号を長い有線ケーブル長で屋外、屋内をつなぐ際、屋内からの強力な雑音でエラーが発生しないこととあった。

以前は、屋内設置の送受信装置と搬送端末装置は隣接し、ワイヤケーブルで短く接続できた。デジタル無線方式はアナログ無線方式に比べ、端末間の耐雑音性能は格段に強いが、現地の許容ケーブル損失、干渉雑音レベル、周波数等の定量的な仕様がなく不安であった。接続法は筆者が設計することになった。

視察した設置現場は、送電用大電力の50/60ヘルツ周波数変換所で被干渉雑音として考えられる強大なインバータ用水銀整流器からのアーク放電と大電力交流発電機からの誘導磁界雑音を想定した。整流波形の高調波、磁界誘導が雑音源と想定し、対策設計をおこなった。具体的には通常の非平衡同軸から、平衡2線のシールドタイプケーブルとし、両端に高周波トランスを介し、平衡、非平衡の変換を行った。事前検証なしで不安だったが、無事納入運用されて安堵したことを覚えている。

50GHz帯簡易無線機のESDの課題と解決

50GHz防滴屋外ユニットとケーブル接続で、屋内設置用映像伝送アナログユニットまたは高速デジタル伝送ユニットに接続し、様々な用途に使用された。

無線システムの商品化に先立ち、社内システム認定仕様をクリアする必要があった。

その中で苦労したのが静電気放電(ESD)試験であった。

高速デジタル伝送状態で放電時にBER特性が変化するかを確認する試験で、放電場所によって変化した。

ESD耐力の弱い箇所を見出し、改良を行った。

筐体グランド(FG)と信号グランド(SG)の2系統グランド設計によりESDの雑音を抑えた。

筆者は50GHz防滴屋外ユニットの設計担当であったが、ESDによる雑音が内部に侵入しないようアンテナと送受信部ユニット間に絶縁導波管を介して接続するなどの構造を採用し何とか商品化できた。

50GHz帯簡易無線機の送信周波数試験機の課題と解決

1983年に電波法改正で50GHz帯簡易無線局が容易に使えるようになった。

筆者は50GHz防滴屋外ユニットの設計担当となり、試験仕様書まで記述する任務があった。

製造工場はミリ波帯周波数を直接測定する測定器がなく、当時の測定器メーカーも安価な製品開発が進んでおらず、入手も困難であった。

筆者は、急遽25GHz源振の誘電体共振器付きガンダイード、バラクタダイオードFM発振逓倍器を試作し、同僚が開発した水晶発振器内蔵の位相同期回路と組み合わせ、50GHz高確度発振逓倍器を試作した。

これを基に温度特性の優れた50GHz高確度同期ガン発振器を複製し、ミキサと組み合わせたダウンコンバータを用意した。

中間周波数を通常の周波数カウンターで測定することで間に合わせた。

しばらくして、高調波ミキサ付きのミリ波周波数カウンターが、発売され使用するようになった。

ミリ波帯フィルタの調整時間短縮課題と解決

1960年代W-40G-ミリ波大容量導波管伝送方式商品化にあたり、広帯域ミリ波導波管BPFの調整試験の長時間が課題となった。

当時は、現代のように優れた周波数掃引発振測定器が無く、製品デバイス開発と測定器の同時開発で進行していた。

BPFは多段共振器を所望の特性に調整が必須である。

当初、現代のような優れた伝送特性直視測定器はなく、狭帯域周波数可変の反射型クライストロンの電圧やリペラー距離を機械的に調整するような非効率な方法で調整していたので、大変長時間を要した。

1960年代後半、測定メーカーから後進波管の電子ビームの速度を変える掃引電圧により、広帯域周波数可変出力の掃引発振測定器が開発された。

これを使用しミリ波検波器とミリ波版ディップ周波数計を併用し、ブラウン管面に振幅周波数特性が直読できる測定系が整い、短時間の調整試験が可能となった。

増幅用大出力トランジスタ放熱の課題と解決

 半導体素子の放熱は、装置の顧客信頼性仕様から、個々の半導体素子の接合温度が定められていた。

接合温度は、装置の外周温度からトランジスタ接合部までの熱抵抗とトランジスタの消費電力で決まる。

当該トランジスタ単体は、半導体チップと気密実装用金属ケースから出来ている。

トランジスタは、加速信頼度評価装置で加速温度における接合部の合金化劣化から、寿命を推定しているのでケース温度が決め手になる。

無線部の回路設計上、トランジスタケースを放熱効果の高い実装金属ケースに熱抵抗の低い状態で実装し、かつ、高出力を実現しなければならない。

高出力トランジスタケースは、コレクタ電極にダイボンディングされ、熱抵抗を低くしている。

ベース、エミッタはワイヤボンディングのため、高熱抵抗だ。

そのためコレクタと直結するトランジスタケースは、放熱シートなど介さずに直接ユニットの金属ケース接触させる回路とし、グランド電位となる。

高出力トランジスタチップは、NPNで、ベース電極、エミッタ電極は、コレクタ電位よりマイナス電位となり、電源の自由度はない。

通常、エミッタ接地が多い。

仮にエミッタ接地型にするとコレクタ電極は薄い電気絶縁体(マイカ、セラミック等)で浮かすので、金属ケース間に浮遊容量が発生し、熱抵抗も高くなる。

トランジスタ接合温度の仕様をクリアすることを優先し、コレクタ接地を選択した。

マイクロ波回路開発における課題と解決

筆者が長年開発に携わった新規マイクロ波回路開発には、多くの課題に直面した。

最初の課題は、昭和38年ごろ真空管を半導体に置き換える全固体化2GHz多重無線機の送信高出力ローカル部の出力不安定性であった。 

これは、以前マイクロ波回路設計の軌跡 その11 逓倍器が発振する項に触れたが、当時筆者の学力では想像すらできない現象で、技術書、学校の教科書に記述がなく、開発担当者、上司にも解決策が無かった。

そこで回路パラメータを変え、不安定性を詳細に調査した。不安定性解消の一つは、バラクタの直流バイアスを外部印加バイアスから自己バイアスに切り替えることであった。

他の不安定性は、多段逓倍器の負荷インピーダンス変動に起因するものであった。

当時の最終段140MHz帯大出力トランジスタ増幅器(プッシュプル)の出力は、出力10Wであった。直結励振する4逓倍器2により2GHz1Wを得る構成であった。

逓倍器が不安定動作する条件における、励振する増幅器は無負荷に近い状態になり、貴重なトランジスタをたびたび破損した。

逆に1段目の4逓倍器の出力端を無負荷にしても無負荷状態にならないような逓倍器動作もできた。これを一方向性逓倍器と称した。

このアイデアは、調整が難しく実用しなかった。逓倍回路図では、共振回路とダイオードの非線形容量のリアクタンスのみで、出力端が無負荷なら、入力端もほぼ全反射になるような回路であったので不思議な現象であった。

原因は、4逓倍の出力を無負荷にしても他の逓倍次数周波数で発振し、回路内の抵抗成分が負荷になることがわかった。

逓倍器チエーンの不安定性の解決は、負荷を安定にする手段が有効なことは分かっていたが、当時のそれは大型で採用できなかった。

製品化され量産の過程で、ある確率で不安定性が発生し、新開発された小型アイソレータ(VHF,UHF帯)を逓倍器入力側に接続することで解決した。

マイクロ波無線機器の開発用高周波測定器

筆者は通信機会社に1962年入社し、マイクロ波多重無線機開発に従事した。

当時は、VHF帯からUHF帯の回路設計と研究試作を行っていた。

職場に有った当時の高周波測定器は、発振器、インピーダンス測定用平流計(定在波計)、RFインピーダンスブリッジ、

周波数計、スペクトラム計、RF電力計、ディップメータ、精密RF減衰器であった。

中でも、ディップメータは、大変重宝な簡便測定器だった。

筆者が当時開発中の2GHz帯出力の逓倍回路は共振回路の塊で多数の共振回路調整に多用した。

ディップメータは交換可能なコイル、内蔵したバリコンと直結する共振周波数直読ダイヤル、検波器、発振素子、

イヤホン、電源からなり自作も容易で、今でもアマチュア無線家などに使用されている。

機能的には可変発振器、電波強度電流計、周波数レンジ交換用精密コイルによる被測定物との電磁結合を備えている。

測定項目は、コイルとコンデンサからなる共振器の共振周波数測定、Q測定、被測定回路の発振周波数測定、アンテナの共振周波数測定、

コイルのインダクタンス、コンデンサの静電容量、など多数である。

現代のLCRメータ、スペクトラムアナライザ、周波数カウンターの様な高度測定精度は得られないが、超小型、超軽量、超安価が特徴だ。

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