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RFアナログエンジニア ブログ

シリーズ : マイクロ波発振器周波数安定方式 ~その1.

 マイクロ波発振器周波数安定方式は種々あるが,筆者が開発に関係した19601980年代では、(1)水晶共振子による発振器を源信とする逓倍方式(2)水晶発振器を基準として位相比較器、電圧制御マイクロ波発振器を組み合わせた位相同期方式(PLL)(3)高Q共振器付き直接発振方式である。

筆者が企業に入社(1962年)して最初の開発を担当したのが(1)水晶共振子による発振器を源信とする逓倍方式の2000MHz帯FM多重無線装置用局部発振部で、2000MHz帯最終出力は1Wであった。当時の半導体デバイスの能力ではかなり高い目標だった。しかも要求周波数安定度も高く、45MHz帯の水晶発振器を源信に2000MHzまで逓倍する回路形式だった。オーバートーンの水晶共振子による発振器からの開発だった。逓倍段は、×3、×4、×4 ですべて高出力逓倍用バラクタを使用し、各段はアイドラ回路という共振器を付け高効率を図った。中間段には、当時としては最高レベルのシリコン高出力トランジスターを使用した135MHz10W増幅器を設けた。開発試作を経て、製品化し、各地の無線局に納入運用された。その後、2GHz帯受信局部発振部にはスッテプリカバリダイオードによる高次逓倍器も実用化された。これはダイオードの大変鋭いスイッチング特性を利用し、アイドラ回路なしで10次以上の高調波を発生でき、最終出力段のフィルタを通して、受信ミキサを励振する。

シリーズ:特殊高周波回路の思い出 ~その3. 速度計測ミリ波レーダー

 1980年代に移動体速度計測用の50GHzCWレーダー用ミリ波送受信部を設計製作した。ブルトーザの燃費改善が目的である。キャタピラースリップ率を検出しエンジン制御センサーとしてのミリ波レーダーは超低速から高速まで計測できるよう小型、軽量、耐過酷な環境が求められた。ミリ波レーダーの速度計測は、速度に比例するドップラー周波数から求めるため、低速度では極めて低い周波数となる。

ミリ波レーダーの速度計測は、送信周波数とミキサ局発周波数が同一である。ミキサから出力されるビート周波数は速度に比例するドップラー周波数であるので、低速度では極めて低い周波数(<100kHz)となる。そのため、ヘテロダイン用ミキサの熱雑音と異なり、低速度の感度は、1/fなどのキャリア近傍の雑音の影響を受ける。このため、発振源にガンダイオード、受信ミキサーダイオードに変換損特性の良いGaAs半導体ダイオードよりも低周波雑音が低いシリコン半導体ダイオードを使用した。特に受信ミキサダイオードは、低ドップラー周波数帯のNFはシリコンミキサダイオードの方が良いので採用した。対地車載レーダーは、アンテナ主ビームは路面に対し、45度で路面に配置する。一方遠距離の移動体速度計測用レーダーは、高利得カセグレンアンテナを用いた。

シリーズ:特殊高周波回路の思い出 ~その2. 超再生受信機

再生受信回路は、真空管、トランジスター、電池が高価な時代、少数の増幅素子数個でスーパーヘテロダイン受信機並みの高感度を得る面白い回路である。超再生受信機の歴史は古く、軍用携帯真空管無線機の消費電力低減と電池、部材軽量化で開発された。我が国の放送ラジオ受信機の時代では、低コスト化の超再生に似た真空管再生受信機が実用していた。要は信号を負帰還でなく、正帰還させて利得をあげる特殊な回路である。筆者が子供のころの我が家にあった再生AMラジオ受信器は、感度を上げるためバリコンで帰還量を調整し、発振の手前で止めて放送を聞いていたことを覚えている。庶民が安価な放送ラジオ受信器を求める時代に実用した。ただスーパーヘテロダイン受信機に比べ欠点が多くやがて衰退した。超再生は、可聴周波数以上の低周波で発振させ、高周波正帰還再生増幅検波回路を発振状態と非発振状態にスイッチングするクエンチング (quenching) 動作させる回路。

筆者は学生時代にトランジスター2石で、携帯超再生放送ラジオ受信機を試作し、通学の電車内で放送波を聞き、高感度であることを体験した。しかし調整が微妙でかつ雑音が大きく実用的で無かったことを覚えている。 現在は、アマチュア無線家の試作や、超廉価の400MHz帯のRFを高感度に受信するMMICを搭載した特殊受信モジュール発売されている。

シリーズ:特殊高周波回路の思い出 ~その1. 注入同期ミリ波増幅器

発振器に信号を注入し、同期させ、注入電力より大なる出力を得る増幅器。 大出力高周波のトランジスター増幅が無い時代、ガン、インパットの2端子デバイスで大出力を実現する回路。ただ、帯域が狭く、入出力の線形性はない。信号は周波数変調信号か、位相変調に限る。筆者は、50GHzのガン発振器で実験したが、電源立ち上げ時に同期外れが生じやすく、上手くいかず製品化できなかった。

コーヒーブレイク ちょっとひといき

☆多重無線装置のマイクロ波高出力固体化局発部開発における苦労話

・2GHz局発は、当時の最先端半導体デバイスを用いて構成されていた。45MHzのオーバートーン水晶発振器が源信で3逓倍後135MHz帯を高出力トランジスター増幅器により10Wまで出力し、バラクタダイオードの4逓倍回路2段から構成されていた。高出力増幅器は当時の最新鋭トランジスターが使用されたが、負荷の逓倍器は、非線形容量のバラクタ、共振回路からなりリアクタンスの塊で、調整時に不整合反射(前述)が起こり高価なトランジスターがよく破損した。逓倍回路の改良、高耐力トランジスター、1GHz以下のアイソレーターの採用で安定な局発に改良された。

・FM多重無線方式は、FM雑音規格が厳しく、局発にも低雑音が要求された。局発のFM雑音(位相雑音)は、主に逓倍次数、源信の発振器に依存する。水晶発振器で雑音は、水晶共振子の極めて高いQ10000前後、周波数選択性)、半導体デバイス、正帰還回路、電源回路から発生する。一方、逓倍次数が高いほど増加するので源信周波数を上げたいがオーバートーン高次数での水晶共振子のQ低下、電極の寄生容量による異常発振が問題となる。当時、専用のFM雑音の測定器がなく、多重中継器のベースバンド帯に変換し、高感度レベル計で間接的に評価していた。雑音が低下する正帰還量などを決め、回路設計し製品化できた。

シリーズ:マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その16. 惑星探査衛星のマイクロ波通信

 はやぶさ2の活躍が話題になっている。小惑星りゅうぐうと地球間距離は約3kmといわれるが、受ける電波強度は超微弱だ。筆者が経験した地上ミリ波通信の回線設計から考えると想像を超えた驚異の通信だ。通信技術と雑音との戦いだ。通信を可能にする技術要素は、宇宙雑音の低い電波の窓の周波数利用(Sバンド、Xバンド)、高利得大口径高効率低雑音地上アンテナ、大電力送信機、極低雑音受信機、最適コマンド、テレメートリ情報伝達方式、ビット誤り訂正技術、狭帯域受信、地上局アンテナ設置環境、衛星の位置制御技術、高確度原子基準発振器 等である。筆者は、デジタル移動通信の導入における地上局と移動通信間の干渉雑音を調査する仕事に従事したことがあり、長野県臼田宇宙空間観測所、鹿児島県内之浦宇宙空間観測所を視察した経験がある。そこには直径64m、34mの強大パラボラアンテナ、20kW送信クライストロン、ガス・ヘリウム冷却極低雑音増幅器があり、地球局、惑星探査衛星間通信を可能にしているマイクロ波技術があった。

シリーズ:マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その15. マイクロ波で酒がうまくなる?

☆マイクロ波の応用に思う

 我が国にマイクロ波の電子レンジ用マグネトロンが開発された昭和36年頃、無線雑誌に安いウイスキーを高級ウイスキーにできないかとの実験記事があったことを記憶している。 ウイスキーは長時間かけて樽に寝かし、水分子、アルコール分子などの結合をゆっくり変えていく熟成を電磁波で揺さぶり早める考えらしい。そんな短時間に熟成が進むと思えないが、雑誌の挿絵には螺旋ガラス管にウイスキーを循環させ、ガラス管に電磁波を当てる構成があったようだが周波数、出力などは忘却した。

ただ、電磁波で熱くするだけなら今の電子レンジで出来るが、照射電力、時間、照射変化、周波数など調査研究し、美味いウイスキーがうまくなる条件が見つかれば面白い。

・最近のマイクロウエーブ展で、植物の生育と電磁波の影響を研究する発表を興味深く聞いた。ある条件で電磁波を浴びた試料の方がそうでないものより成長するという。以前にも害虫に強く、低農薬栽培に効果あるとの記事を読んだ記憶がある。雑草だけ生育阻害できる電波照射条件が明らかになるなど、農産物増産に寄与できればと期待している。

 一方、電磁波の人体への悪影響があるのではないかと長年叫ばれている。最近ではデンマークの中学生が行った実験で無線LANルータの近くに置いた植物種は発芽阻害があったとのニュースがあった。 現在では電波機器の安全基準がある。筆者は昔、数W程度のマイクロ波回路の実験中に時々指の局所を火傷し、電波の影響を意識したことがあった。金網を体に付ける研究仲間もいた。電磁波被ばく安全基準は、国によっても異なる。影響を調べるための周波数、電力、距離、形状、照射時間、検証部位など要素が極めて多く、因果関係を特定することに困難がある。大量普及のスマホなどの移動端末は長時間人体の至近距離にあり、電波機器の人体への影響研究は今後も続けるべきと思う。

シリーズ:マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その14. 半導体デバイスと真空管デバイスの実用化はどちらが早かったか

デバイスの定義で答えが異なる。電磁波用デバイス機能の内、重要な増幅作用のデバイスでは真空管デバイスが先である。真空管は熱電子を扱うためヒーター電源が必要なこと、他に高電圧の複数電源が必要で電源回路がネックとなり、短寿命、大型、高コストで半導体デバイスの実用化が求められていた。

筆者が企業に入社(1962年)して開発に携わったマイクロ波無線回路は、ちょうど真空管デバイスから全固体(半導体デバイス)化への転換期で、真空管をシリコントランジスターとダイオードに置き換えるものであった。

真空管とトランジスターは情報通信文明における歴史的デバイスである。真空管とトランジスターの最大の違いは、真空管は真空中の電子流の制御。トランジスターは、固体中の電子流、正孔流の制御であろう。真空管は、金属を熱すると金属から電子が飛び出すエジソン効果の発見から始まった。エジソンは電球の研究中に、フィラメントと金属板の電極をガラス管内に封入し、金属板を正極にしたときのみ真空中でも電流が流れ、フィラメントから電子が放出していることを発見した。これをダイオードと呼んだ。これをさらに応用することをしなかったのは惜しいことだ。これは、交流波を整流、検波できる2極管そのものです。電球の研究から偶然発見したことが飛躍的な無線通信の実用化となった。学生時代真空管ラジオを自作し、壊した真空管の構造が教科書の図の通りでであったことを記憶している。ヒーター、カソード、グリッド、プレートが目に見えるのが興味深かかった。一方、トランジスターは小さなケースに数ミリ角の半導体チップがあり、肉眼では分からなかった。真空管の電極間隔が肉眼で見えることは、電子の走行時間が長いことであり、高い周波数では入出力の応答遅延があることです。そこで、より微細構造で高周波を目指した電子管が板極管である。1GHz程度まで使用できる。そこで、科学者は電子走行時間の遅延を工夫し、より高周波で大出力を可能にした真空管を開発した。真空管は高電圧、大電流に耐える特徴がある。何せプレート金属が赤くなるほどでも壊れません。そこで科学者は、電子流と共振器の結合や電子流と磁気の作用を利用し、ミリ波領域まで大出力、発振、増幅できる特殊電子管を次々と発明、実用化した。クライストロン、マグネトロン、進行波管などで、現在でもマイクロ波大出力装置には電子管の独壇場である。しかし、短寿命が最大の欠点である。連続通電の無線通信には寿命が短い電子管(一般的には5000時間前後)は、高い維持費で衰退した。初期の無線局舎は技術者、保守員が常駐していた。電子管の定期交換、調整が必須だった。真空管は、真空度を維持するため、内部にゲッター(バリューム等)を蒸着させ、残留ガス分子を吸着させる。ガスの吸着能力が真空管の寿命を決定づける。真空管ガラスの内面に蒸着している銀色の膜がゲッターだ。 

 1947年に半導体のトランジスターが発明され、電子移動度が固体のため遅いが移動距離が極めて短くできるため高周波に向いている。固体中の電子(正孔)の制御であるため、真空管にない小型、軽量、長寿命、低電圧動作の特徴があり電子回路の主役になった。ただ、分子、原子、量子レベルの半導体物理解析、半導体結晶の高純度、不純物注入、超微細加工、金属膜蒸着、酸化膜加工など多種多様な高精度設計技術、微細製造技術、高精度測定技術が不可欠であり、課題山積で真空管に比べ発展が遅れた。また、半導体デバイスは、不純物の異なる半導体同士、半導体と金属が接触する一体化の産物なので真空管に比べ多岐にわたる課題があり、それを克服し実用化された。ネットには半導体物理分野の課題としてショットキ―障壁(金属と半導体界面の電子エネルギ―の崖)問題があり、半世紀にわたる研究が続けられていると報じられている。

シリーズ:マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その13. マイクロ波、ミリ波帯二端子半導体素子

筆者が長年(19621985年)マイクロ波、ミリ波回路の開発に多く用いた半導体デバイスは、可変容量ダイオード(バラクタダイオード)、ガンダイオード、ショトキーダイオードである。

バラクタダイオード:端子間電圧でPN接合容量が非線形に変化する。FM変調、逓倍、低雑音増幅(パラメトリックアンプ)に用いられるが、筆者は、大出力逓倍器、FM変調器に使用した。

ガンダイオード:1963年にガン氏によるガン効果の発見で実用的発振出力が得られるようになった。ガンダイードはNGaAsInPのバルクに電極を付ける比較的簡単な構成で製造容易な特徴がある。直流の印可電圧を上げていくとある電圧から電流が電圧に比例しない負性特性領域が生じ、マイクロ波の発振、増幅が可能になる。筆者は、50GHz帯発振器に使用した。

エサキダイオード:初めてマイクロ波の増幅、発振が可能な能動半導体ダイオードは、1957年に発明された江崎ダイオードである。低雑音受信増幅器用に実用化されたが、発振器の電力は小さく実用的でなかった。

インパットダイオード:1958年にリード氏による原理提案があり、1965年に動作確認された。ガンダイオードと異なり、PN構造を有する。ミリ波帯で1W以上の高出力の得られる発振、増幅用ダイオードである。なだれ電流を利用するため、雑音が大きく、負性抵抗周波数範囲が比較的狭い。W-40G方式の送信回路に多用された。

 

シリーズ:マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その12. 我が国のマイクロ波多重無線中継方式のエポック

エポック1:戦後から約20年間は、真空管デバイスの無線機でアナログFM多重伝送方式が主流だった。

 昭和21年、東京―大阪回線に超短波多重無線方式が設置された。周波数60MHz帯(マイクロ波でない)のAM方式の多重容量わずか数チャンネルであった。

昭和29年、電話、白黒TVの中継用のマイクロ波通信方式が導入され、周波数4000MHzFM方式の電話換算通信容量360CH(1無線CH当たり、以下同じ)であった。マイクロ波デバイスは、クライストロン、進行波管であった。

昭和33年頃、周波数4000MHzFM方式の電話換算通信容量600CHであった。主マイクロ波デバイスは、進行波管であった。

昭和36年頃、周波数6000MHzFM方式の電話換算通信容量1200CHであった。主マイクロ波デバイスは、クライストロン、進行波管であった。以後、半導体デバイスの採用割合が進み、送信増幅の進行波管を残し、固体化アナログFM方式(通信容量2700CH)まで実用化した。 真空管デバイス無線機は短寿命(10000時間前後)であるから、定期的な交換再調整のため無線中継局では有人で保守管理していた。また、通信容量増大に伴い周波数分割多重(FDM)は、電話ではSSB4H/1CH毎に並べて多重化するため、ベースバンドのBPF4kHzごとに並べるので高コストとなり、雑音に弱い欠点があった。(筆者は、昭和36年から2GHz帯全固体式FM多重無線装置の局発部の開発に従事した。)

エポック2:全固体(半導体)化とデジタル無線伝送(パルス再生方式)の導入。

昭和40年代には短距離マイクロ波送受信装置のデバイスが全固体化(全半導体化)され、半導体性能の向上で固体化が進んだ。パルス再生中継のデジタル無線多重化が実用された。ハードも半導体化され長寿命で故障も少なくなった。

一方、パルス再生変復調方式の導入で、アナログ方式の弱点である中継毎の雑音が相加されることなく、伝送距離に左右されない高品質の通信が可能になった。信頼度向上で無線中継所も無人化が進んだ。昭和59年に幹線系全固体化20GHzデジタル無線中継方式(400Mbit/s無線チャンネル当たり)が実用化した。

以後、幹線系大容量通信は光ファイバー方式が主流となり、無線は分岐回線や移動通信に移行する。

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